2021年1月、インターネットでの海賊版対策を強化するために、改正著作権法が施行され、違法ダウンロード規制の対象は漫画、書籍、新聞、論文、ソフトウェアのプログラムなどに拡大されました。それに先駆け、10月にはリーチサイトの規制が開始されました。著作権改正の背景には海賊版サイトによる莫大な被害があり、漫画業界だけでも、2020年の被害総額は2000億円を上回ると言われています。
2020年10月から規制対象となったリーチサイトとは、違法に著作権物をダウンロードできるサイトなどの情報をまとめ、インターネットの利用者を誘導するサイトのことを指します。2019年4月の出版広報センターによる調査によると、日本からのアクセス数の多い海賊版サイト上位10サイト中、6つがリーチサイトの形態をとっていました。ソーシャルメディアやブログ、掲示板などにおける書き込みも規制の対象になっており、リーチサイトの運営だけでなく、海賊版へのリンクを提供する行為自体も規制の対象になります(著作権法第113条)。また、2023年には、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構 (以下CODA)によるDMCA通知や米国裁判所からの発信者情報開示命令の後、当時最大のアクセスを集めていたリーチサイト13DLが閉鎖されました。
改正著作権法には、海賊版サイトに対して二つの抑制効果があると考えられます。まず、インターネット利用者が違法と知った上で海賊版漫画などをダウンロードする行為を規制し、著作権を侵害する海賊版の拡散を防止することができると期待されています。また、リーチサイトを規制する事で、海賊版サイトへアクセスしにくくすることも期待されています。その一方、法律による規制、インターネットの広告や検索規制、消費者に対するキャンペーンなど、様々な取り組みが行われていますが、問題の発端である海賊版サイト自体を削除するのは簡単なことではなく、海賊版サイトの手口は巧妙化しています。
前述の通り、日本から頻繁にアクセスされているリーチサイトは、海賊版漫画などを違法にダウンロードさせるサイトへインターネット利用者を誘導します。なぜリーチサイトというものが存在し、これらのサイトはどのように利益を得ているのでしょうか。
一般的に、リーチサイトは漫画などの出版物を無料でダウンロードできると謳い、出版物をダウンロードするリンクをアクセスすると違うサイトにリダイレクトします。無料でダウンロードできると謳っているにも関わらず、リダイレクト先のサイトでは無料でダウンロードできるオプションが提供されていないことが頻繁に見られます。多くの海賊版サイトでは、有料プランを購入しないと、目当ての著作物をダウンロードできないようになっています。
これが典型的な海賊版サイトの手口の一例で、リーチサイトは出版物の無料でダウンロードできると広告し、他のサイトにインターネット利用者を誘導します。リダイレクト先のサイトは、ファイルをインターネットにアップロードし、他のユーザーと共有したりダウンロードを可能にするクラウドサービスで、サイバーロッカーと呼ばれています。リーチサイトでは無料と書かれていましたが、ダウンロードするために先に進むと、リダイレクト先のサイバーロッカーで閲覧者に有料プランを購入させるようになっています。また、サイバーロッカーによっては無料でダウンロードが可能であっても、ダウンロードできるファイルなどに制限があったり、スピードが非常に遅くなったりします。
そして、リーチサイトは海賊版を提供するサイバーロッカーなどに閲覧者を誘導することで利益を得ることができるのです。リーチサイト自体では海賊版は提供されていないものの、悪質なサイバーロッカーへのアクセスを増やせば増やすほどサイバーロッカーから報酬を貰うことができるのです。上記に記載したリーチサイト、13DLが典型的な例です。CODAによると、13DLは複数のサイバーロッカーにリンクしており、リンク先のサイトで利用者が有料契約をすることでサイバーロッカーから報酬を得ていたそうです。
海賊版は著作権侵害になり、これらを故意にアップロード及びダウンロードすることは禁止され、改正著作権法の規制対象になります。海賊版サイトの運営や違法ダウンロード行為には懲役もしくは罰金、あるいはその両方が課される可能性があります (著作権法第119条)。また、リーチサイトの運営や、リーチサイトに海賊版著作物へのリンクを提供した場合も、規制対象になり、同様に懲役や罰金が課されます(著作権法第119条、120条)。更に、このような悪質なサイトに個人情報などを渡してしまうと、クレジットカード情報などが盗まれ悪用されてしまう危険も伴います。サイバーロッカーで支払い情報を入力しても、本当に目当ての著作物にアクセスできるとは限りません。また、ウイルスや不正なプログラムをダウンロードしてしまう危険性もあります。
違法ダウンロードなどに使用されてしまう可能性のあるサイバーロッカーは、決済業界でもリスクの高い分野とされています。クレジットカード決済サービスを提供するアクワイアラにも、サイバーロッカーを運営している加盟店に違法性がないかどうか審査するよう規定が定められている上、カードブランドルールに違反してしまう可能性もあります。
リーチサイトやサイバーロッカーによる著作権侵害は、大きな社会問題です。レジットスクリプトでは、著作物を提供していたり、サイバーロッカーを運営している事業者を監視し、リスクをお伝えするモニタリング業務を行っています。